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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)54号 判決 1968年11月30日

控訴人 内山千代 外二名

被控訴人 篠原浩

主文

原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。

被控訴人(借主)が控訴人ら(貸主)との間において、原判決添付目録記載の土地に対して堅固な建物所有を目的とする賃借権を有しないことを確認する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文第一ないし第三項同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の関係は、控訴代理人において、立証<省略>……のほかは、原判決事実摘示と同一であるから、ここに、これを引用する。

理由

当裁判所の判断は、原判決理由二を次のとおり訂正するほか、原判決理由記載と同一であるから、ここに、これを引用する。

そこで被控訴人(借主)の原判決添付目録記載の土地に対する賃借権が堅固な建物所有を目的としたものか否かについて検討する。

いずれも成立に争のない乙第一ないし第三号証に原審における被控訴人と原審並びに当審における控訴人内山幹也の各本人尋問の結果を総合すると、

被控訴人は昭和二六年一二月二六日控訴人ら先代亡内山粂二より前記土地を賃借したが(この点は争がない)、両者はそれまで互に面識がなく、当初被控訴人は右土地の譲渡を求めて交渉し、亡粂二がこれを肯じなかつたため、賃借に至るまでに一ケ月余の日子を要し、結局互に相手方を信頼するということで右賃貸借契約には契約書の作成もなされていないこと、被控訴人の賃借目的は同所で質商を営む点にあり、このことは亡粂二も了承していたので、同人の承諾のもとに同月二七日被控訴人は延坪一〇坪の鉄筋コンクリート造りの二階建質倉(堅固建物)の建築確認を得てこれを建築し、ついで翌二七年一月二五日増築の形式で延一三、五坪に及ぶ木造の店舗兼住宅の建築確認を得てこれを建築し、以来質商として同所に居住営業してきたが、昭和三八年質屋営業を廃止して更に木造二階建アパートを建築したので堅固建物と非堅固建物の比率は約一対一〇の割合になつたことがみとめられる。

思うに、建物所有の目的で土地の賃貸借契約が結ばれた場合に、その契約が普通建物の所有を目的とするものであるか堅固な建物の所有を目的とするものであるかは、この点についての明確な合意がないかぎり、賃借人がその地上にいかなる種類の主たる建物の所有を目的としたものであるかを基準としてこれを決すべきである。ところで、居住用の建物と営業用の建物とが併存する場合には、特段の事情がないかぎり、居住用の建物をもつて主たる建物と認むべきであるから、賃借人が居住用の建物を所有して借地を利用することを目的とする以上、同時に同所に営業用建物をも所有することを目的としたものとしても、その賃貸借契約は居住用建物の所有を目的とするものといわなければならない。それ故に、賃借人が借地上に居住して質屋営業を営むため、土地を賃借する際その上に居住用建物とともに堅固な建物に属する倉庫(質蔵)を所有し、または居住用建物の一部を堅固な構造である倉庫とすることを予定し、賃貸人においてもこれを了承していた場合でも、居住用建物の部分を普通建物とするものである場合には、その賃貸借はなお普通建物の所有を目的とする賃貸借たる性質を失わないものと解すべきである。もとより、土地の賃貸借が堅固な建物たる質蔵を所有することを主たる目的とするものであつて、質蔵に附随して建設された普通建物は質蔵の保存監守用として使用される等その維持管理に奉仕する従属的な建物と認められるべき場合は、別問題である。そして、以上のことは、本件のように、質屋営業を営むため、土地を賃借して賃貸人の了承の下にまず堅固な建物たる倉庫を建設し、その後増築して居住用の建物を附合せしめた場合でも変りはなく、また、居住用の建物部分と倉庫の部分とがその坪数において大差がない場合でも同様である。

前叙認定の事実によれば、本件の土地賃貸借については契約書の作成もなく、たんに被控訴人が質屋営業を営むため堅固な建物たる倉庫を建設するについて控訴人が了承を与えたという以外に地上建物の種類および構造を定めた形跡もない。すなわち、被控訴人が本件土地を賃借するにいたつた当初の目的は、同所に居住して質商を営むにあつて、その営業用倉庫を堅固の建物とする必要のあるのは別として、居住用の建物についてこれを堅固な建物とすることの合意は認められないのである。そして、結果においても、被控訴人は居住用として普通建物を建設し、現在は質屋営業を廃止してさらに普通建物たるアパートを建設している。とすれば、本件賃貸借は普通建物の所有を目的とするものであつて、被控訴人において本件土地につき堅固な建物の所有を目的とする賃借権を有しないことは、前段説示の理由から当然としなければならないのである。

原審における被控訴人の本人尋問の結果中には、亡粂二との相対での交渉の結果権利金や地代の額を考慮して契約期間を六〇年とする合意が成立した旨の供述部分がみられるが、右の供述は当裁判所これを採用しない。また、第三者の作成にかかり成立を認め得る乙第四、第五号証によれば、被控訴人が前記土地に七坪の大谷石づくりの車庫を建築し、一時他に賃貸した事実が窺えないではないが、その建設時期が明らかでないだけでなく、このような車庫は当然に居住用建物に附随するものにすぎず、この事実をもつてしても前認定を覆して前記賃貸借が堅固な建物の所有を目的としたものであると認めることはできない。

しからば、控訴人の被控訴人が本件土地につき堅固な建物の所有を目的とする賃借権を有しないことの確認を求める本訴請求は理由がある。

よつて右と異る原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人ら敗訴部分を取消し、右の点に関する控訴人らの請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷部茂吉 鈴木信次郎 麻上正信)

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